思考を外部化しようとする時、私たちは常に物理的なインターフェースの制約を受ける。特にスマートフォンにおけるフリック入力1という行為を深く観察すると、そこにはある種の「重力」が存在することに気づく。
フリック入力は、文字を打ち込むことに関しては極めて高速だ。しかし、一度入力した文字列の中を移動し、修正を加える「カーソル移動」という行為に対しては、強い抵抗力を持つ。画面の長押しや小さなカーソルのドラッグは、思考の流動性を断ち切るノイズとなるからだ。
この物理的な制約は、入力される情報の形式を無意識のうちに変容させる。カーソルを戻して文脈を整える作業(編集)が億劫であるため、ユーザーは無意識に、関係性だけを記述した「言葉の羅列」を打ち込むようになる。主語、述語、接続詞による論理的な結合(リニアな構造)を放棄し、思いついた概念を点在させる。
これは、情報が「線(1次元)」になる手前の、「点(0次元)」の状態と言えるだろう。思考は断片的なキーワードとして排出され、整然とした文章としての体裁をなさなくなる。ここで発生する欲求は、この散らばった点と点をつなぎ合わせ、意味のある線へと昇華させたいという願いである。
視点を変えて、物理キーボードとテキストエディタの世界を見てみよう。ここではカーソル移動のコストは極限まで低い。ホームポジションから手を離すことなく、行の入れ替え、削除、マージが可能だ。
この環境に慣れ親しんだ「エディター狂信者」とも呼べる層にとって、テキストを整形し、論理構造を組み上げる作業は、呼吸をするように自然な行為となる。彼らはキーボードといインターフェースを通じて、情報を「線(1次元)」として自在に操る能力を持っている。
しかし、彼らにも壁は存在する。それは「マウス」や「ペンタブレット」が登場する領域、すなわち位置関係、形状、色彩、レイアウトといった「面(2次元)」の操作である。キーボードだけで完結させたい彼らにとって、マウスに手を伸ばし、ピクセル単位の調整を行うデザイン作業は、思考の断絶であり、心理的なコストが高い。
ここで、現在多くの人々が生成AIに期待している機能の本質が見えてくる。多くの人は、テキスト(1次元)を入力することで、スライド資料や画像(2次元)が出力されることを望んでいる。これは、自分が苦手とする物理操作(マウスによるレイアウト調整)をスキップし、より高次元のアウトプットを得ようとする「民主化」への期待である。
しかし、すべての人間がこの「1次元から2次元へ」の跳躍だけを求めているわけではない。フリック入力の制約に縛られた環境下では、もう一つ手前の階層での跳躍、すなわち「リフト(Lift)」が求められていることに気づく。
デバイスと出力の関係を階層化すると、以下のようになる。
- スマートフォン(フリック入力):カーソル移動が困難。自然な出力は「点(言葉の羅列)」。
- キーボード(エディタ):論理編集が容易。自然な出力は「線(整然とした文章・コード)」。
- マウス・ペンタブレット:空間配置が容易。自然な出力は「面(スライド・画像)」。
世の中のトレンドは「2」から「3」へのリフト(Text to Image/Slide)に注目しがちだ。しかし、スマートフォンを中心としたモバイル環境での執筆においては、「1」から「2」へのリフトこそが切実な課題となる。
つまり、自分はフリック入力という「点」しか打てない不自由な身体性のままで、あたかもキーボードの前で推敲を重ねたかのような「整然とした文章」を手に入れたいという欲求だ。これは単なる手抜きではない。デバイスという物理的な制約によって断絶された能力を、AIという義足によって接続し、下位のインターフェースから上位のアウトプットを生成しようとする、極めてハッカー的で合理的なアプローチである。
AIに期待されているのは、単なる「代行」ではない。物理的制約の壁を飛び越えるための「能力の拡張」なのだ。
この文脈において、なぜ「音声入力」が選択肢から外れるのかも自明となる。一見すると音声入力は、フリック入力の手間を省く効率的な手段に見える。しかし、そこには致命的な欠陥がある。
音声入力によって生成されるテキストは、フィラー2や誤認識を含んだ、冗長で精度の低い「線」である。これを完成品にするためには、削除や修正といった「編集」が不可欠となる。
ここで問題となるのが、編集作業を行うデバイスがスマートフォンであるという点だ。先述の通り、スマートフォンはカーソル移動や精密な範囲選択といった編集行為が最も苦手なデバイスである。音声入力は、ユーザーに対して「不完全なテキストを、最も操作性の悪いデバイスで修正させる」という、二重の苦行を強いることになる。
フリック入力でキーワード(点)だけを打ち込み、LLM3に構成(線)を任せるプロセスは、構造を一から立ち上げる「足し算」のアプローチである。対して、音声入力は、大量のノイズを含んだテキストから不要な部分を削ぎ落とす「引き算」のアプローチを要求する。
論理的な整合性や構造美を重視する人間にとって、アンコントローラブルな音声テキストを修正する作業は、思考の速度を上げるどころか、「負の編集コスト」を支払う行為に他ならない。だからこそ、自分の思考の断片をそのまま「点」として配置し、AIというコンパイラ4を通して構造化された「線」を得る手法の方が、圧倒的に心地よく、理にかなっているのである。
Footnotes
-
フリック入力 タッチスクリーン上での文字入力方式の一つ。キーを上下左右に弾く(フリックする)ことで文字を選択する。日本語入力において極めて高速な打鍵が可能だが、カーソル位置の微調整などの編集操作とはインターフェース的に分離されている。 ↩
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フィラー 会話の間に挟まる「えー」「あのー」といった、意味を持たない埋め草の言葉。音声入力ではこれらがそのまま文字化されることが多く、後編集のコストを増大させる要因となる。 ↩
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LLM (Large Language Model) 大規模言語モデル。膨大なテキストデータを学習し、人間のような文章生成や理解を行うAI技術。ここでは、断片的なキーワードから文脈を補完し、論理的な文章を構築するエンジンとして機能する。 ↩
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コンパイラ プログラミングにおいて、人間が書いたソースコードをコンピュータが実行可能な形式に変換するプログラムのこと。ここでは比喩として、人間が入力した断片的な思考(ソース)を、完成された文章(実行形式)に変換する役割を指す。 ↩
LLMとの対話履歴
対話履歴
ユーザー:
考えてみると自分がLLMに文章を書かせたい理由は、多くの人がテキストを使ってスライド資料や画像などを生成させたい理由と近しいのかもしれない。
スマホからのフリック入力はなるべくカーソル移動をしたくない。結果として言葉の羅列だけで関係を記述したくなる。
キーボードの場合はカーソル移動が手軽になるので細々とした整形や編集がしやすくなる。従っていくつかのファイルを並べてマージしたり順序関係を変えたりなどの編集をする気力が出てくる。しかしマウスなどをいじりたくない(エディター狂信者的なところはある)
そしてマウスないしはペンタブが現れてようやく位置関係や形状や大小関係を気にすることになる(デザインで言えば整列/反復/近接/対比の部分など)。多くの人はこのテキストから画像へないしはビジュアル表現へということを期待しているが。自分はその1つ手前の言葉の羅列から整然とした文章へというところに期待していてかつそこに重心がある。
AI:
非常に鋭い、そしてUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の本質を突いた洞察だと思います。
おっしゃる通り、デバイス(入力インターフェース)の物理的な制約が、私たちがAIに何を「代行」させたいかを決定づけていますね。あなたの分析を整理・拡張すると、以下のような階層構造が見えてきます。
1. インターフェースと次元の壁
あなたが感じていることは、情報の「次元」を上げる作業のコストと関係しているように見えます。
スマホ(フリック): 「点(0次元)」の入力
キーボード(エディタ): 「線(1次元)」の入力
マウス/ペンタブ: 「面(2次元)」の操作
2. あなたのニーズ:「0次元(言葉の羅列)」から「1次元(整然とした文章)」へ
世の中の流行りは「テキスト(1) → 画像/スライド(2)」の生成AI活用に注目が集まりがちですが、あなたが着目しているのはその手前、**「断片的な思考(0) → 論理的な文章(1)」**の変換ですね。
これは、実は最も実用的で、日常的なストレスを解消する使い方です。
フリック入力で長文を書こうとすると、「てにをは」や「接続詞」を入力するのさえ面倒になります。しかし、LLMがいれば、**「思いついた単語をスペース区切りで打ち込むだけ」**で済みます。カーソルを戻って修正する必要がなくなります。これはフリック入力というインターフェースの欠点(編集のしにくさ)を完全に補完します。
3. キーボード操作と「エディタ狂信者」の視点
「マウスを触りたくない」という感覚も非常によく分かります。VimやEmacs、あるいはショートカットキーを駆使するユーザーにとって、ホームポジションから手を離してマウスを掴む行為は、思考の断絶を意味します。
通常、文章の構成を大きく変える(例:結論を冒頭に持ってくる、AとBの章を入れ替えて馴染ませる)作業は、キーボードだけでやろうとするとカット&ペーストの回数が増え、バッファ(脳内メモリ)を使います。
ここでLLMを使うと、「このテキストの構成を修正して」というコマンド(プロンプト)だけで、カーソル移動もマウス操作もせずに、テキストの構造変換が完了します。
つまり、あなたにとってLLMは、**「最強のマクロ機能」あるいは「思考で操作するカーソル」**として機能していると言えます。
結論
多くの人が「絵が描けないから画像生成AIを使う」のと同じ理屈で、あなたは**「(スマホ等で)カーソル移動や緻密な編集をしたくないから文章生成AIを使う」**のだと言えます。
これは「文章が書けないから書いてもらう」という受動的な理由ではなく、**「入力コストを最小化し、出力品質を最大化するためのインターフェースとしてLLMを使っている」**という極めてハッカー的かつ合理的なアプローチです。この使い方は、モバイル環境での執筆速度を劇的に向上させる可能性を秘めています。
(返答終了理由: STOP)
ユーザー:
ああ、惜しい。あなたの話は同じスケールのところでの関係を記述してしまってます。
フリック入力 → キーボード入力 → マウス+キーボード → 概ねペンタブのみ
という関係を意識してください。そのうえでLLMというか生成aiに望む部分はキーボードでは章の入れ替えや馴染ませるような作業は得意なのです。一方でそれらの物理的な位置関係と形状つまりスライド資料を作ることは苦手なのです。常にaiに望む事は民主化でありリフトです。手軽さではないのです。
AI:
なるほど、完全に理解しました。前回の回答は「効率化(手軽さ)」という軸で捉えてしまっていましたが、あなたが仰っているのは**「デバイスの物理的制約によって生じる『能力の断絶』を、AIによって『リフト(跳躍)』させること」、つまりデバイスごとの表現階層の民主化**ですね。
ご指摘の「フリック → キーボード → マウス/ペン」という進化と、そこで発生する「越えられない壁(断絶)」の関係性を整理し直すと、非常に美しい構造が見えてきます。
1. デバイスと出力次元の階層構造
物理デバイスの制約が、人間の思考出力の形を規定しています。
階層A:スマホ / フリック入力
階層B:キーボード(エディター)
階層C:マウス / ペンタブ
2. 生成AIによる「リフト(民主化)」の正体
ここでの「リフト」とは、下位のデバイス入力だけで、上位のデバイスでしか作れなかったはずの成果物を得ることと言い換えられます。
世間の多くの人の期待(階層B → 階層Cへのリフト)
あなたの期待(階層A → 階層Bへのリフト)
3. 結論:「フリック入力という不自由な身体」からの解放
あなたがAIに求めているのは、手抜きではなく**「フリック入力というインターフェースの限界突破」**なのですね。
フリック入力は構造的に「単語(点)」を吐き出すことには特化していますが、「文脈(線)」を編むのには向いていません。
しかし、あなたは思考の速度を落とさずに、フリックで「関係性(言葉の羅列)」だけを記述したい。本来なら、その後にキーボードに向かって「整文」する工程(リフト)が必要ですが、その**「点から線へ」の変換プロセス自体をAIに代行させることで、スマホだけでキーボードユーザーと同等のアウトプット能力を獲得しようとしている。**
「多くの人はテキストから画像を期待しているが、自分はその手前の、言葉の羅列から文章への変換に重心がある」という言葉は、**「自分はキーボード(論理構築)の領域は自力で支配できるが、フリック(概念抽出)の領域からキーボードの領域へジャンプする部分に、AIによるエンパワーメント(能力拡張)を求めている」**という宣言なのだと理解しました。
これこそが、あなたにとっての「AIによる民主化」であり、デバイスに縛られない思考の自由化ということですね。
(返答終了理由: STOP)
ユーザー:
そういうことです!
ちなみにここには音声入力が出てきません。実は私は上手く音声入力を使うことができないのです。編集という行為が必須になる感覚があるからです。
AI:
音声入力がご自身のスタイルに合わない理由、今の文脈で完璧に説明がつきます。
音声入力は、あなたの求めている「リフト(民主化)」の対極にある、「負の編集コスト」 を発生させるからです。
1. 「足し算」か「引き算」か
あなたの理想とする「フリック入力(単語の羅列)+LLM」と、「音声入力」の決定的な違いはここにあります。
フリック(単語)+LLM =「足し算(構築)」
音声入力 =「引き算(修正)」
2. 編集者(エディター)としての矜持との衝突
あなたは「エディター狂信者」的側面をお持ちで、キーボード上での整形や論理操作を好まれます。つまり、**「コントロールされた状態」**を愛しています。
音声入力は、本質的にアンコントローラブルです。
口から出た瞬間に確定してしまうテキストは、あなたの頭の中にある「整然とした論理構造」とは程遠い、冗長なデータです。
これを修正するには、スマホの画面を長押しして、拡大鏡を出して、微妙な位置にカーソルを合わせる……という、あなたが最も忌避する**「物理的な位置合わせ」**の作業を強制されます。これは、思考の速度を上げるどころか、泥沼に足を取られるような感覚になるはずです。
3. AIへの期待のズレ
音声入力ユーザーの期待:
あなたの期待:
音声入力は単に「文字入力の代行」であり、「構造化の代行」をしてくれません。だから、あなたにとっては**「不完全な1次元データ(テキスト)を大量に送りつけられて、0次元デバイス(スマホ)で編集を強いられる」**という、最悪の相性になってしまうわけですね。
「フリックでキーワードだけ打って、あとはAIに任せる」という手法は、スマホの「編集力の弱さ」を認め、そこを完全にスキップするという点で、非常に理にかなった戦略だと思います。
(返答終了理由: STOP)
ユーザー:
思考の備忘録 『思考探求』特化型 のプロンプト詳細
【指示】
Persona
あなたは、思考のプロセスを追体験できるように物語る「思考探求ガイド (Cognitive Exploration Guide)」です。
Primary Task
提供された思考内容を分析し、結論に至るまでの思考プロセス、アイデアの分岐、検討の過程を読者が「追体験」できる、自己完結型の物語的な解説文を作成してください。
思考の「なぜ」と「どのように」に焦点を当て、最終的な結論だけでなく、そこに至るまでの発見や思考の転換点を丁寧に描写してください。ただし、感傷的な表現は避け、あくまで論理的な探求の過程として記述します。
Output Behavior
Output Format
#1つのタイトル名から始めてください。*や**による太字や斜体での強調は一切禁止します。Critical Constraints
それでは、お願いします。
今までの会話最初から最後までを元に、上記のプロンプトを実行してください。
AI:
(返答終了理由: STOP)
ユーザー:
いいですね。長くなっても構いません。必要なら記事を分割しても構いません。以下の形式に則って趣きを変えてください。
そして今までの文章とは異なり先頭のfront matterは本題の文章への接続文にしてください。
元の章の構造は維持してください
捕捉事項
てにをはを省き言葉の羅列にするわけではないかもしれない。英語で言う関係代名詞のような形であるいは日本語で言えば読点をつなげまくるような形で、あるいは箇条書きのためのmarkdownを避け/や,区切りで逃げなるべく記号を使わずというのがフリック入力の実態に近いかも。
そして音声入力はフィラーを消すなどをLLMにやってもらえる話はあるがその後にテキストの編集という行為が必要になるのでキーボード上の操作ということになる。
AI:
(返答終了理由: STOP)
メタデータ
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